相手の同意を得ることなく別居を開始しただけでは、悪意の遺棄にはあたりません。別居に正当な理由がない、別居後に生活費(婚姻費用)を払わない場合などは、「悪意の遺棄」(民法770条1項2号)になりえます。
1.悪意の遺棄とは
悪意の遺棄とは、民法770条1項2号に定める離婚原因の1つであり、正当な理由なく、夫婦間の義務を履行しないことをいいます。
夫婦間の義務とは、具体的には、夫婦の同居義務・協力義務・扶助義務(同法752条)及び婚姻費用分担義務(同法760条)をいいます。
別居が「悪意の遺棄」と認められると、悪意の遺棄をした方は、有責配偶者となります。有責配偶者からの離婚請求は、離婚裁判では、原則として認められません。他方、悪意の遺棄をされた方からの離婚請求は、原則として認められ、また、有責配偶者に対し、慰謝料を請求することもできます。
2.別居とは
別居とは、夫婦が同居していない状態であり、夫婦の同居義務に違反しているようにも思えます。
しかし、転勤、出稼ぎや単身赴任など職業上の理由による別居や病気療養等の理由による別居、相手の同意がある場合など、正当な理由がある場合、同居義務違反とはいえません。
「悪意の遺棄」にあたるのは、正当な理由なく、別居する場合に限られます。
3.「悪意の遺棄」の判断
別居に正当な理由があるかどうかは、別居開始時点の夫婦関係、別居の際の態様、別居に至る理由や経緯、別居後の生活状況や夫婦の言動などから、総合的に判断されます。
例えば、夫婦関係が破綻したため、別居する場合(夫婦関係を破綻させた側からの別居を除きます)、一般的には、正当な理由があるとされます。
また、別居後の婚姻費用の分担、生活費の支払いなど、同居義務以外の夫婦間の義務の履行状況も、悪意の遺棄にあたるかの判断要素となります。
4.別居が「悪意の遺棄」になるとした裁判例
裁判例で、別居が「悪意の遺棄」にあたると判断されたケースとして、次のようなものがあります。
・浮気・不倫・不貞行為を繰り返し、十分な生活費を支払わず、離婚を要求した夫が、別居を開始したケース(名古屋高裁平成21年5月28日)。
・横暴な言動を重ね、別居するに至り、その後、婚姻費用を全く支払わなくなったケース(東京地裁平成28年2月23日)。
・浮気相手と交際することを主な目的に、相手が関係修復を望む態度を示していたにもかかわらず、一方的に別居に踏み切り、その後、生活費の負担等の夫婦間の協力義務を果たさなかったケース(東京地裁平成28年3月31日)。
・事前の説明なく一方的に別居を開始し、関係の修復を求められても、具体的な同居に向けた協議・提案等を行うことなく、これを拒絶して別居を継続したケース(東京地裁平成29年9月29日)。
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