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血のつながりがなくても「親子」になる場合ー名古屋の弁護士による解説コラム

血のつながりがなくても「親子」になる場合ー名古屋の弁護士による解説コラム

妻が婚姻中に懐胎して生んだ子が、実は夫の子ではなかったとします。この場合、夫がそのことを知っているにしろ知らないにしろ、放置しておけば、子供は法律上(戸籍上)夫の子として確定します。放置せず、夫の子とならないようにするためには、夫が嫡出否認の訴えという手続を1年以内に行わなければなりません。
しかし一定の場合に、この厳格なルールの適用を除外することが、判例上認められています。そして近時、DNA検査で血のつながりがないことが判明した場合についても、ルールの適用除外に含めるべきではないかが問題となった事件があり、最高裁判決が出されました。結論は、含めるべきでないというものです。つまり、たとえDNA検査により血のつながりがないことが判明したとしても、一度確定した法律上の親子関係は覆せないのです。

1.嫡出推定と嫡出否認の訴え

1.法律上の親子とは

法律上の親子関係と生物学上の親子関係はつねに一致するとは限りません。たとえば、未婚の女性が一人で産んで認知されていない子には、生物学上は必ず父親が存在するはずですが、法律上は父親不在です。
法律上の親子関係は、養育費の支払義務や相続権の基礎となる重要なものです。この法律上の親子関係がどのように発生するかについては、男女により、また嫡出子であるかどうか、養子か実子かにより異なります。

 

実子

女性

分娩により当然に発生

男性

嫡出子

出生により当然に発生、ただし嫡出否認をすればなかったことになる

非嫡出子

認知により発生

養子

養子縁組により発生

2.嫡出推定制度

妻が夫により懐胎し、生まれた子のことを「嫡出子」といいます。婚姻関係にある男女間の子ということになります。夫により懐胎したかどうかはつねに明らかなわけではありませんが、民法はこの点について推定規定を置いています。

民法772条1項 妻が婚姻中に懐胎した子は、夫の子と推定する。

そして、懐胎時期が婚姻中だったかどうかについても、推定規定があります。

民法772条2項 婚姻の成立の日から200日を経過した後又は婚姻の解消若しくは取消しの日から300日以内に生まれた子は、婚姻中に懐胎したものと推定する。

この二重の推定により、嫡出子とされる子については、上記のとおり当然に父子関係が発生することになります。

 

3.嫡出否認の訴え

ただし、その子が実は夫の子ではなかった場合に対応できる手段も必要です。それが嫡出否認の制度です。夫は、子の出生を知ったときから1年以内に嫡出否認の訴えを提起し、自分が父親でないことを主張立証すれば、その子との父子関係を始めからなかったことにできます(民法774条〜778条)。

逆に、夫が1年以内に嫡出否認の手続を取らなければ、その後は父子関係を争うことができなくなります。たとえ他人の子だったとしてもです。

この厳しい制限と772条の嫡出推定はセットになって、嫡出子の父子関係を早期に確定させる機能を果たしています。それは子の身分関係の法的安定を保持する必要があるからであり、子供のための制度です。

自分の子かどうか心配なら1年以内に争いなさい、それを過ぎたなら、たとえ後から他人の子だとわかったとしても、子供から父親だと思っていた存在を奪い去るようなことはしてはならない、という考え方が制度の根底にあります。

しかし、この仕組みは少し厳格にすぎるのではないか、他人の子との父子関係が確定してしまうのは感覚的におかしいのではないか、という問題意識が古くから存在しました。そして、判例により、一部の例外が認められるようになりました。

2.「推定の及ばない子」

1.例

たとえば、夫が出征中だった、刑務所に収監中だった、海外への長期出張中だった等の事情により、妻が夫により懐胎するはずがない時期に懐胎した子については、1年の期間制限を過ぎてしまっていても、また夫以外の者からでも、父子関係を争えると判例が認めています。

また、夫婦が別居して事実上の離婚状態だった場合についても、同様の判断をしている判例があります。判例上の表現では「夫婦の実態」が失われていたかどうかがポイントになります。

このように、772条の推定に形式的にはあてはまるけれど、嫡出否認の厳しい制限が適用されない子のことを「推定の及ばない子」といいます。

 

2.親子関係不存在訴訟

「推定の及ばない子」だとされる場合、父子関係を争うための方法は、嫡出否認の訴えに限定されません。1年以内に夫からアクションを起こす場合には、もちろん嫡出否認の訴えを利用できますが、それ以外の場合でも、親子関係不存在確認訴訟という方法で父子関係が存在しないことの確認を裁判所に求めることができます。

親子関係不存在確認訴訟を起こすことができるのは、法律上の父に限られません。確認の利益が認められ、権利濫用に当たらない限り、誰から起こしても適法です。たとえば、法律上の父が死亡した後の相続の場面で、弟が兄の相続権を否定するために「兄は父が出征中の子で、本当は父の子ではない」と主張して親子関係不存在確認訴訟を起こしたことを適法と認めた判例があります。

子自身が本当の父親を求めて、法律上の父との親子関係を切るために親子関係不存在確認訴訟を起こすこともできます。また、独立の訴えを起こすのではなく、たとえば生物学上の父を相手に認知の訴えを提起しながら、その中で法律上の父との親子関係不存在を前提問題として主張し、判断してもらうこともできます。

 

3.血縁がない場合

上記の判例が認めている例は、いずれも懐胎した当時の状況を外形的に見て、妻が夫により懐胎するはずがない時期に懐胎したといえる場合です。それでは、そのような事情はないけれど、血液型やDNAに照らして夫の子であるはずがないと言える場合はどうなのでしょうか。

このような場合も「推定の及ばない子」と扱うべきだとする立場を「血縁説」、あくまでも外形的な事情がある場合にとどめるべきだとする立場を「外観説」とよびます。

判例は従来から外観説の立場をとってきましたが、近時、DNA鑑定結果が証拠として出されている事案でも外観説を貫いた最高裁判決が出ています。同じ小法廷による、3つの親子関係不存在確認請求事件についての同日付の判決です。以下、内容を紹介します。

3.最高裁平成26年7月17日判決

1.事案の概要

以下、控訴審が大阪高裁だった事件を大阪ケース、札幌高裁だった事件を札幌ケース、高松高裁だった事件を高松ケースといいます。

 

①大阪ケース

夫婦は平成16年に婚姻したが子供がなかった。夫は工場勤務で単身赴任していたが、ときどき帰宅しており、夫婦の実態は失われていなかった。妻は平成19年頃から別の男性と交際し、妊娠し、平成21年に出産した。夫は子供を自分の子だと思って養育してきた。平成23年、夫に不貞の事実が判明し、妻は離婚を求めたが、夫は拒絶した。妻は子供を連れて家を出て、交際相手の男性と3人で生活をしている。妻から離婚訴訟を提起したが、まだ成立していない。妻側で、子供と男性のDNA鑑定を実施したところ、父親である確率は99.99%とされた。妻が法定代理人となり、子供を原告として親子関係不存在確認訴訟を提起。途中で特別代理人が選任された。

 

第一審:訴えを認め、親子関係を否定。

控訴審:夫からの控訴棄却。

上告審:原判決破棄。訴え却下。親子関係は争えない。

 

②札幌ケース

夫婦は平成11年に婚姻したが子供がなかった。同居し、夫婦の実態は失われていなかった。平成20年に妻がアルバイト先の男性と交際を始め、平成21年に妊娠した。妻は浮気相手との子供だと確信していたので、妊娠を隠し、夫に黙って病院に行き、そのまま出産した。まもなく夫は妻の居所を探し当て、出産の事実を知って驚いた。夫は、妻から子供は他の男性の子だと聞かされたが、自分の子として出生届を提出し、養育を始めた。しかし、その後夫婦仲が悪化し、平成22年に協議離婚した。離婚後、元妻は交際相手の男性と同居し、3人で生活している。元妻側で、子供と男性のDNA鑑定を実施したところ、父親である確率は99.999998%とされた。元妻が法定代理人となり、子供を原告として親子関係不存在確認訴訟を提起。

 

第一審:親子関係を否定。

控訴審:元夫からの控訴棄却。

上告審:原判決破棄。訴え却下。親子関係は争えない。

 

③高松ケース

DNA鑑定の結果、子供が自分の子でないと知った父が原告となり、子供を被告として親子関係不存在確認訴訟を提起。

 

第一審:訴え却下。

控訴審:控訴棄却。

上告審:上告棄却。

 

2.判旨

①大阪ケース

夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,子が,現時点において夫の下で監護されておらず,妻及び生物学上の父の下で順調に成長しているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。

 

②札幌ケース

夫と子との間に生物学上の父子関係が認められないことが科学的証拠により明らかであり,かつ,夫と妻が既に離婚して別居し,子が親権者である妻の下で監護されているという事情があっても,子の身分関係の法的安定を保持する必要が当然になくなるものではないから,上記の事情が存在するからといって,同条による嫡出の推定が及ばなくなるものとはいえず,親子関係不存在確認の訴えをもって当該父子関係の存否を争うことはできないものと解するのが相当である。

 

③高松ケース

民法772条により嫡出の推定を受ける子につき夫がその嫡出子であることを否認するためにはどのような訴訟手続によるべきものとするかは,立法政策に属する事項であり,同法777条が嫡出否認の訴えにつき1年の出訴期間を定めたことは,身分関係の法的安定を保持する上から合理性を持つ制度であって,憲法13条に違反するものではなく,また,所論の憲法14条等違反の問題を生ずるものでもないことは,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和28年(オ)第389号同30年7月20日大法廷判決・民集9巻9号1122頁)の趣旨に徴して明らかである(最高裁昭和54年(オ)第1331号同55年3月27日第一小法廷判決・裁判集民事129号353頁)。

 

3.解説

 

(1)事案の違い

①大阪ケースと②札幌ケースはどちらも子供が原告となっていて、法律上の父親とは別居し、母親及び生物学上の父親と同居しているという点でよく似ていますが、③高松ケースは父親が原告となっているという点で大きく異なります。

高松ケースの原告の主張のように、後からDNA鑑定で自分の子でないとわかったからといって父親から親子の縁を切れるとすれば、子供のために父子関係を早期に確定させ、間違っていても争えなくするという嫡出推定制度の考え方に根本的に反することになります。民法制定当時には存在しなかったDNA鑑定という技術が手軽に行えるようになった今日でも、基本的な部分は同じなのです。そこで、このケースについては家裁から最高裁まで同じ判断でした。嫡出推定制度の制限は外せないので、嫡出否認の訴えができる期間を過ぎてしまっている以上、親子関係は争えず、親子関係不存在確認訴訟は不適法なので訴えを却下するというものです。

これに対し、大阪ケースと札幌ケースでは子供が原告となり、子供の側が親子関係の解消を求めているのに、法律上の父がそれを拒んでいるという形をとっています。しかも、生物学上の父が母子と良好な関係を築いており、新しい父親を含む家族の実態ができていると思われる事情があります。家裁と高裁は子供の側の主張を認める判断をしましたが、最高裁はこれを覆しました。

 

(2)家庭破綻説・新家庭破綻説

大阪ケースと札幌ケースの控訴審は、それぞれ本件の場合をいわゆる「推定の及ばない子」に含めるべきだと判断しています。ただし、これは単純な血縁説ではなく、血縁がないという事情に加え、法律上の父とはすでに別居していることや、生物学上の父との関係が良好なことを考慮に入れていると思われます。

学説でも、これらを重視する立場があります。家庭が破綻して法律上の父との間で保護すべき関係が失われていることを要件とする説(家庭破綻説)、さらに生物学上の父との間に新しい家庭が形成されていることも要件とする説(新・家庭破綻説)などです。

最高裁は、こうした事情があっても「推定の及ばない子」とすることはできないと判断したので、血縁説だけでなく、家庭破綻説、新・家庭破綻説も否定したと解されています。

 

もっとも、最高裁でも裁判官の意見が分かれ、小法廷5名の裁判官中、2名が反対意見をつけています。反対意見は新・家庭破綻説の立場でした。

 

(3)なぜ外観説なのか

なぜ血縁説や家庭破綻説、新・家庭破綻説の立場を取らないのかについて、2名の裁判官の補足意見が述べています(大阪ケースと札幌ケースとで、補足意見は全く同じ文章です)。

血縁説については、そもそも嫡出推定制度の考え方に合っていないことが大きな理由です。血縁がなかったとしても、子供のためにそれを確定させてしまうのが嫡出推定制度ですから、血縁がなかったことを理由に嫡出推定を外せるというのでは矛盾します。血縁を重視した親子関係にしたいなら、法律を変えるしかないと補足意見は述べています。

家庭破綻説については、当事者が意図的に家庭を崩壊させるかもしれないことが指摘されています。高松ケースのように父親から親子関係を切ろうとする場合を考えればありうることで、子供の保護につながりません。

新・家庭破綻説については、生物学上の父との間に新しい家庭が形成されているかどうかについては、さまざまな事情を総合して判断しなければならず、それらの事情は訴訟中にも判決後にも変動するものだと指摘されています。判決後に母と生物学上の父が別れてしまったり、認知する約束を守らないことも考えられます。その場合、子供は法律上の父を失っただけの結果になりかねません。

結局、DNA鑑定結果で親子関係を争えるとした場合に他の事案に及ぼす影響を考えると、その立場は採用できないという判断だったといえます。裁判では個々の事案に対して妥当な解決を与えることも大切ですが、画一的なルールを公平に適用することがもっと大切なのです。

 

(4)嫡出推定制度に関する立法論

たしかに、子供が親子関係の切断を求めているのに父がそれを拒むという構図は、子供のための制度であるはずの嫡出推定制度の本来の働き方ではありません。とくに、本件のように子供が幼い場合でなく、成人した子供が完全に自分の意思で切断を望む場合を考えると、それを認めないのは不自然にも思えます。

しかし、それは嫡出推定制度において、嫡出否認の訴えを起こせるのが夫だけに制限されているためだという指摘があります。否認権者を妻や子にも拡大すれば解消できるという意見です。もちろん、これは立法論であり、法律の解釈ではなく法改正によって対応すべきことです。

 

4.まとめ

現行の嫡出推定制度を前提にする限り、DNA鑑定で実は夫の子ではなかったと判明したとしても、法律上の親子関係は覆せません。あくまでも、懐胎当時に夫により懐胎するはずがなかったという外形的事情が必要です。

 

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