慰謝料は、相手の自分に対する不法行為が認められた場合に請求できます。相手配偶者の有責な行為により離婚を余儀なくされたといえる場合でなければ、不法行為が成立せず、慰謝料を請求できません。このため、互いに有責とはいえない場合や、有責性が自分の側にある場合には、離婚慰謝料を請求することはできません。
1.離婚とお金
離婚に際して発生するお金のやり取りは、大きく分けて3つあります。
慰謝料 離婚による精神的苦痛に対する損害賠償として支払うお金 民法709条(不法行為)
財産分与 夫婦の財産の清算として支払うお金 民法768条(財産分与)
養育費 非監護親から監護親に対する子の扶養義務の分担として支払うお金 民法877条(扶養義務)
いずれも民法に請求の根拠規定があり、それぞれの要件を満たしていなければ請求できません。
2.離婚慰謝料とは
上記のうち慰謝料は精神的苦痛に対する損害賠償を意味し、その根拠は民法709条の不法行為です。離婚慰謝料は、相手配偶者の有責な行為により離婚を余儀なくされたことを不法行為ととらえ、損害賠償を請求するものです。
なお、離婚そのものではなく、特定の不貞や暴力など個々の離婚原因も不法行為を構成しえます。したがって、個々の離婚原因に基づく損害賠償も考えられますが、通常は離婚の際に包括的に扱います。
3.なぜ離婚慰謝料なしの場合があるのか
不法行為の要件は、故意または過失により相手の権利または法的保護に値する利益を違法に侵害することです。すべての離婚の場合にこの要件を満たすとはいえません。
たとえば、双方の気持ちのすれ違いから互いに話し合って離婚を合意した場合、どちらかの行為によって相手方の法的保護に値する利益を違法に侵害したとはいえないため、不法行為は成立しません(相手の行為による権利侵害といえない)。
また、自分側に離婚の原因がある場合も、もちろん相手配偶者が不法行為をしたとはいえませんから、慰謝料は請求できません。
不法行為になるのは、相手配偶者の有責行為により離婚を余儀なくされたといえる場合です。たとえば、次のような例です。
- 相手配偶者のDV、浪費・ギャンブルが原因で離婚した
- 相手配偶者の不倫が原因で離婚した
- 相手配偶者の犯罪行為が原因で離婚した
- 相手配偶者のモラハラが原因で離婚した(客観的な証拠がないことも多く、程度によっては不法行為とはならないこともあります。
4.慰謝料請求の手続きと時効
慰謝料請求できるかどうかと、離婚をどのような手続きで行うかは関係ありません。協議や調停で最終的に離婚に同意したとしても、それだけで不法行為を許す趣旨にはなりませんから、別途慰謝料は請求できます。しかし、離婚合意書や調停条項に「慰謝料は請求しない」との文言を入れた場合や、「互いに債権債務を負わない」といった清算条項を入れた場合には、慰謝料請求権を失うことになるため、注意が必要です。
慰謝料請求権は3年で消滅時効が完成します(民法724条)。起算点は離婚成立時からになります。