年金分割には合意分割と3号分割の2種類があります。合意分割は事前に当事者の合意か調停審判等により按分割合が決定されていることを要件としているのに対し、3号分割は3号被保険者(専業主婦等)だった者が請求すれば自動的に年金分割される制度で、合意分割より簡便です。その流れと方法について、説明します。
1.年金分割の基本的な仕組み
年金分割は、離婚により将来の年金受給額に不均衡が生じる懸念から低所得配偶者を救うため、財産分与と類似の発想で、年金の受給額を分け与えるように調整する制度です。
といっても、受給額が決定してからその金額を直接に分割するわけではありません。婚姻期間中に収めた保険料の合計額を計算上分割することで、まだ受給が始まっていなくても、将来の年金受給額に影響させることができる仕組みになっています。この収めた保険料は収入額に対応しているため、計算の対象はその収入額を類型的に把握した数字である「標準報酬」です。
2.3号分割を利用できる人
年金分割は、上記のとおり収入に応じて受給額に不均衡が生じることへの対策なので、厚生年金だけを対象とします。年金には国民全員が加入する国民年金と、民間企業のサラリーマンや公務員が追加で加入している厚生年金があり、前者は収入にかかわらず一定額ですが、後者は収入により納める保険料と受給する年金の額が変わってきます。合意分割と3号分割共通で、まずは相手方配偶者が厚生年金に入っていることが必要です。夫婦とも自営業の場合は利用できません。
そして、3号分割はその中でも3号被保険者を対象とした制度です。厚生年金に加入している人のことを2号被保険者といいますが、3号被保険者はその2号被保険者に扶養されている配偶者のことをいいます。扶養されているかどうかの基準は、年収が130万円未満かどうかです。
いうまでもなく専業主婦を念頭においたカテゴリーですが、性別は要件ではないので専業主夫であってもよいです。このような専業主婦(夫)の相手方配偶者が納めてきた保険料は、専業主婦(夫)も共同で負担したものだということを基本認識にするということが、あえて規定されています(厚生年金保険法78条の13)。
なお、専業主婦(夫)であっても、相手方配偶者が障害年金の受給権者である場合には対象から外されます。
3.3号分割の対象期間
3号分割は、婚姻期間のうち3号被保険者であった期間のみを対象とします。たとえば結婚当初は共働きで、後に退職して専業主婦(夫)になった場合、3号分割を請求すると専業主婦(夫)期間のみについて年金分割されることになります。逆に、その場合に合意分割を請求すると、婚姻期間全体を対象としつつ、専業主婦(夫)期間については自動的に3号分割で処理されます。
もう一つ重要な制限として、対象となる専業主婦(夫)期間は「平成20年4月1日以降」でなければなりません。これは、この制度が設けられた平成16年の厚生年金保険法改正の際に施行規則で定められたものです。それより古い時期については、専業主婦(夫)であっても、合意分割の手続によることになります。
4.3号分割の流れ
流れを簡単に述べると
①離婚等
↓(2年以内)
②3号分割標準報酬改定請求
↓
③改定・決定
↓
④通知
となります。
5.3号分割の具体的な手続
上記の流れに沿って説明します。
①離婚等
- 離婚
- 婚姻の取消し
- 事実婚の解消
のいずれかの事由が必要です。
②3号分割標準報酬改定請求
請求期限があり、原則として①の事由が生じてから2年以内に行わなければなりません。例外的に、2年以内に標準報酬の按分割合を定めるための調停または審判を申し立てており、期限満了の1カ月前までに決着していない場合には、決着してから1カ月まで猶予されるなどの特則があります。
この請求は、合意分割の場合と異なり、専業主婦(夫)だった一方当事者が一人で行うことができます。請求者の現住所を管轄する年金事務所に請求書を提出して行います。記載事項は自分と相手の基礎年金番号、対象期間等です。添付書類として、基礎年金番号を証明できる年金手帳等、離婚を証明できる戸籍謄本等が必要です。
③改定・決定
請求を受けた年金事務所は、標準報酬の改定・決定を実施します。具体的には、まず対象期間について、請求者も被保険者期間であったとみなします。そして各月ごとに、相手方の標準報酬月額と標準賞与額を2分の1に改定し、その分を請求者の標準報酬月額と標準賞与額として決定します。
④通知
年金事務所から、改定・決定がされた旨が当事者双方に通知されます。
6.3号分割の効果
3号分割により相手方から2分の1の分割を受けた標準報酬を計算の基礎として、年金額が決定されるようになります。すでに年金を受給している人が手続を行った場合、請求した月の翌月分から年金額が変わります。