母子家庭や父子家庭などで児童を育てている方が、無利子や低利率など一般よりも有利な条件でお金を貸してもらえる制度です。
母子福祉資金は母子家庭の母が利用できる貸付制度で、ほかに父子家庭の父に対する父子福祉資金、かつて母子家庭の母であった寡婦に対する「寡婦福祉資金」があります。根拠となる規定はそれぞれ「母子及び父子並びに寡婦福祉法」13条、31条の6、32条となります。
このような貸付制度を運営する目的は、ひとり親家庭で子供を育てる方の経済的自立の助成と生活意欲の助長を図り、あわせて児童の福祉を増進するためとされています。
1.母子福祉資金の対象者
貸付を受けられる方は、「配偶者のない女子で、現に児童を扶養しているものまたはその方が扶養している児童」および児童と共に扶養している20歳以上の子供などです。
「配偶者のない女子」とは、次に該当する女性の方をいいます(同法6条1項、同法施行令1条)。
- 夫と死別して、現に配偶者がいない(事実婚もしていないこと)
- 夫と離婚して、現に配偶者がいない(事実婚もしていないこと)
- 夫の生死が不明
- 夫から遺棄されている
- 夫が海外にいるため扶養を受けられない
- 夫が精神または身体の障害により長期にわたり労働能力を失っている
- 夫が法令により長期にわたって拘禁されているため扶養を受けられない
- 未婚の母であって、現に配偶者がいない(事実婚もしていないこと)
次に、「児童」とは、この制度に関しては20歳未満の者のことをいいます。
2.貸付金の種類
子供の進学など一時的な経済的負担の大きいイベントを主に想定して、次の12種類の貸付金が用意されています。それぞれに貸付限度額、利率、償還期限などが設定されています。
なお、実績として利用が多いのは子供の修学資金関係だとされています(全体の9割程度)。
以下の内容はこども家庭庁が令和5年4月1日現在のものとして公表している情報に基づきます(https://www.cfa.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/0a870592-1814-4b21-bf56-16f06080c594/03005900/20230401_policies_hitori-oya_14.pdf)。
①事業開始資金(同法13条1項1号)
たとえば洋裁、軽飲食、文具販売、菓子小売業等の事業を開始するのに必要な設備、什器、機械等の購入資金です。
貸付限度額 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|
326万円 |
1年 |
7年以内 |
保証人あり→無利子 保証人なし→年1.0% |
②事業継続資金(同法13条1項1号)
現在営んでいる事業を継続するために必要な商品、材料等を購入する運転資金です。
貸付限度額 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|
163万円 |
6か月 |
7年以内 |
保証人あり→無利子 保証人なし→年1.0% |
③修学資金(同法13条1項2号)
子供を高校、大学、高専または専修学校に就学させるための授業料、書籍代、交通費等に必要な資金です。貸付限度額は学校の種類や、自宅からの通学かどうかによって異なります。たとえば私立大学への自宅外通学の場合、月額14万6,000円などです。
貸付限度額 | 貸付期間 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|---|
学校の種類、私立か公立か、自宅通学かによって異なる |
就学期間中 |
当該学校卒業後6か月 |
20年以内(専修学校の一般課程は5年以内) |
子供に貸付→必要 親に貸付→子供が連帯債務者となり保証人は不要 いずれも無利子 |
④技能習得資金(同法13条1項3号)
親が事業を開始しまたは会社に就職するために必要な知識技能を習得するのに必要な資金(訪問介護員、ワープロ、パソコン、栄養士等)です。
貸付限度額 | 貸付期間 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|---|
6万8,000円/月 運転免許の取得が必要な場合は46万円、入学時の必要経費が大きい場合は81万6,000円までの一括 |
知識技能習得の期間内で5年まで |
知識技能を習得する期間の満了後1年 |
20年以内 |
保証人あり→無利子 保証人なし→年1.0% |
⑤修業資金(同法13条1項3号)
子供が事業を開始しまたは就職するために必要な知識技能を習得するのに必要な資金です。
貸付限度額 | 貸付期間 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|---|
6万8,000円/月 特別の場合は46万円 |
知識技能習得の期間内で5年まで |
知識技能を習得する期間の満了後1年 |
20年以内 |
子供に貸付→必要 親に貸付→子供が連帯債務者となり保証人は不要 いずれも無利子 |
⑥就職支度資金(同法13条1項4号、施行令3条1号)
親または子供が就職するために直接必要な被服、履物等および通勤用自動車等を購入する資金です。保証人と利率については、親にかかる貸付の場合①と同様、子供にかかる貸付の場合③と同様です。
貸付限度額 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|
10万5,000円、通勤のため自動車購入が必要な場合は34万円 |
1年 |
6年以内 |
親に貸付 子供に貸付→必要 |
⑦医療介護資金(同法13条1項4号、施行令3条2号)
親または子供が医療または介護(いずれも受ける期間が1年以内の場合に限る)を受けるために必要な資金です。
貸付限度額 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|
医療→34万円、特に経済的に困難な事情のある場合(所得税非課税世帯)は48万円 介護→50万円 |
6か月 |
5年以内 |
保証人あり→無利子 保証人なし→年1.0% |
⑧生活資金(同法13条1項4号、施行令3条3号~7号)
下記対象期間中の生活を維持するために必要な資金です。
対象期間 | 貸付限度額 | 貸付期間 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|---|---|
知識技能を習得している期間 |
14万1,000円/月 |
知識技能を習得する期間内で5年まで |
知識技能を習得する期間満了後6か月 |
20年以内 |
保証人あり→無利子 保証人なし→年1.0% |
医療・介護を受けている期間 |
10万8,000円/月 |
医療・介護を受けている期間内で1年まで |
医療・介護を受ける期間満了後6か月 |
5年以内 |
|
母子家庭等になって7年未満の期間 |
10万8,000円/月 |
母子家庭等になって7年まで |
貸付期間の経過後6か月 |
8年以内 |
|
失業中の期間 |
10万8,000円/月 |
離職した日の翌日から1年以内 |
貸付期間の経過後6か月 |
5年以内 |
|
児童扶養手当受給相当まで収入が減少した場合 |
児童扶養手当の支給額 |
原則3か月以内(都道府県等が適当と認める場合は1年まで延長可) |
貸付期間経過後6か月 |
10年以内 |
⑨住宅資金(同法13条1項4号、施行令3条8号)
住宅を建設し、購入し、補修し、保全し、改築し、または増築するのに必要な資金です。
貸付限度額 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|
150万円 災害等により特に必要がある場合または老朽化による増改築の場合は200万円 |
6か月 |
6年以内 |
保証人あり→無利子 保証人なし→年1.0% |
⑩転宅資金(同法13条1項4号、施行令3条9号)
住宅を移転するための住宅の貸借に際し必要な資金です。
貸付限度額 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|
26万円 |
6か月 |
3年以内 |
保証人あり→無利子 保証人なし→年1.0% |
⑪就学支度資金(同法13条1項4号、施行令3条10号)
子供の各種学校への入学や就業施設への入所に際し被服等の購入費などとして必要となる資金です。貸付限度額は学校の種類により異なり、たとえば国公立の高校であれば16万円、私立高校であれば42万円とされています。
貸付限度額 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|
学校の種類、私立か公立か、自宅通学かによって異なる |
6か月 |
修業施設は5年以内、それ以外は20年以内 |
子供に貸付→必要 親に貸付→子供が連帯債務者となり保証人は不要 いずれも無利子 |
⑫結婚資金(同法13条1項4号、施行令3条11号)
子供の婚姻に際し必要な資金です。
貸付限度額 | 据置期間 | 償還期限 | 保証人と利率 |
---|---|---|---|
31万円 |
6か月 |
5年以内 |
保証人あり→無利子 保証人なし→年1.0% |
3.貸付を受けるには
お住いの自治体の担当窓口に相談します。融資ですので、法令の要件に該当しているかどうかと合わせて、支払い能力についても審査があります。審査に通って初めて貸付を受けることができます。名古屋市の場合は、民生こども課が窓口になります。
4.滞納してしまったら
母子福祉資金の貸付を受けると、据置期間の経過後に償還(返済)がはじまり、月ごと、半年ごと、年ごとのいずれかで分割して返済していきます。この返済を滞納してしまった場合、まずは自治体の担当窓口に事情を説明してください。やむを得ない事由があったと認められれば支払いの猶予を受けられる可能性があります。しかし、このような猶予を受けられる事情がない場合には、本人または保証人に対し一括返済を求められる可能性があり、年5%の違約金も発生します。
5.禁止事項
当然ながら、事情を偽って貸付を受けたり、貸付を受けたお金を目的外に使用することは禁止されています。これらが判明すると貸付が停止し、一括返済を求められ、違約金が発生します。