目次
回答
所得税と住民税の寡婦控除制度と住民税の非課税措置が重要です。近年改正が相次いでいるので、内容をよく確認しておきましょう。
解説
1.寡婦控除とは
所得税法および地方税法上の「寡婦」や「寡夫」に該当する方は、一定の所得控除を受けることができます。所得から一定額を差し引く所得控除により所得が少なく計算される結果、所得税と住民税の税額も減るというしくみです。
1-1.「寡婦」「寡夫」の定義
所得税法および地方税法上の寡婦を前提に、租税特別措置法等によりさらに一定の要件を満たす寡婦に対して優遇措置が取られており、これを「特定の寡婦」または「特別の寡婦」とよびます。これと区別するため、特別の寡婦に該当しない寡婦を「一般の寡婦」とよぶことがあります。
ただし、後述のように改正が予定されています。令和2年分所得税・令和3年分住民税以降については「4.制度見直しについて」を参照してください。ここでは令和2年1月現在の現行制度を解説します。
①一般の寡婦の要件(所得税法2条1項30号、所得税法施行令11条、地方税法23条1項11号、292条1項11号、地方税法施行令7条の3)
イ:AおよびBに該当すること。
A(3つのいずれか) |
B |
夫と死別した後婚姻をしていない |
扶養親族または生計を同じくする子がある
※ただし子は次の条件を満たすこと ・他の者の同一生計配偶者または扶養親族となっていない ・その年分の総所得金額+退職所得金額+山林所得金額の合計額が48万円(令和元年までは38万円)以下 |
夫が次の理由により生死不明 ・太平洋戦争終結時に従軍していて帰国しない ・太平洋戦争終結時に海外にいて帰国しない ・船舶または航空機に乗っていて行方不明となったか沈没、墜落等に遭って3か月以上生死不明 ・その他死亡の原因となるような危難に遭って1年以上生死不明 ・その他3年以上生死不明 |
|
夫と離婚した後婚姻をしていない |
ロ:AおよびCに該当すること。
A(2つのいずれか) |
C |
夫と死別した後婚姻をしていない |
合計所得金額が500万円以下 |
夫が一定の理由により生死不明(①イと同様) |
②特別の寡婦の要件(租税特別措置法41条の17、地方税法34条3項、31条の2第3項)
A、B、Cのすべてに該当すること。離婚されたシングルマザーで所得が500万円以下の方は、こちらに該当する可能性が高いです。
A(3つのいずれか) |
B |
C |
夫と死別した後婚姻をしていない |
生計を同じくする子がある
※ただし子の条件は①と同様 |
合計所得金額が500万円以下 |
夫が一定の理由により生死不明(①イと同様) |
||
夫と離婚した後婚姻をしていない |
③寡夫の要件(所得税法2条1項31号、地方税法23条1項12号、292条1項12号)
A、B、Cのすべてに該当すること。
A(3つのいずれか) |
B |
C |
妻と死別した後婚姻をしていない |
生計を同じくする子がある
※ただし子の条件は①と同様 |
合計所得金額が500万円以下 |
妻が一定の理由により生死不明(①イと同様) |
||
妻と離婚した後婚姻をしていない |
1-2.寡婦控除の手続
給与所得のみの方
年末調整の扶養控除等申告書に寡婦・特別の寡婦・寡夫を申告する欄があるのでチェックをし、必要事項を記入する。
自営業など給与所得以外の所得がある方
確定申告書に寡婦控除の欄があるので金額を記入する。
2.住民税の非課税措置とは
住民税については、寡婦・寡夫に該当する方の中で一定の所得に満たない方については、そもそも非課税となる制度があります(地方税法24条の5第1項2号、295条1項2号)。
要件は上記の寡婦控除と同じ寡婦(特別の寡婦を含む)または寡夫のいずれかに該当し、かつ、合計所得金額が125万円(給与収入204万円)以下の方です。
なお、平成30年度税制改正により、令和3年分住民税から合計所得金額125万円の要件は135万円に引き上げられますが、給与所得控除が10万円下がるため収入ベースでは204万円という点は変わりません。
3.寡婦控除と住民税非課税措置の効果
3-1.寡婦控除の効果
寡婦や寡夫の要件について所得税と住民税の間で差はありませんが、効果である所得控除の金額は異なります。
一般の寡婦 |
特別の寡婦 |
寡夫 |
|
所得税の所得控除額 |
27万円 |
35万円 |
27万円 |
住民税の所得控除額 |
26万円 |
30万円 |
26万円 |
たとえば所得税の税率5%が適用される方が特別の寡婦として寡婦控除を受けると、35万円x5%=1万7500円の減税効果があります。住民税の税率が10%であれば、30万円x10%=3万円の減税効果です。
3-2.税額による二次的な効果
納めている税額により、保育園の保育料、学童保育料、市営住宅の家賃なども変わってくることがあります。さらに住民税非課税であれば、0~2歳児保育が無料、給付型奨学金が利用できるなどのメリットもあります。したがって、これらによる経済的な支援効果は大変大きなものといえます。
4.制度見直しについて
寡婦控除制度と住民税の非課税措置は平成31年度および令和2年度の税制改正で変更されることが決まっており、令和2年分の所得税と令和3年分の住民税からは次のようになります。
[1]未婚のひとり親へも住民税の非課税措置を適用する
これまで、寡婦に該当するのは死別・離婚・生死不明によるひとり親に限られており、未婚のひとり親は対象外でした。同じひとり親であっても、婚姻歴があるかないかで大きな違いがあることになり、不合理だとして改正を求める声がありました。名古屋市など、自治体が独自にひとり親にもみなし適用をしている例がありましたが、全国的に制度化されることになりました。
対象となるのは次のAからCのいずれも満たす未婚のひとり親の方です。
A |
B |
C |
|
児童扶養手当を受給している(ただしその児童は前年の総所得金額等が48万円以下であること) |
Aの児童と生計を一にする父または母であって、次のいずれかに該当する |
前年の合計所得金額が135万円以下 |
|
婚姻(事実婚を含む)をしていない者 |
配偶者が一定の理由により生死不明 |
||
[2]未婚のひとり親へも寡婦控除を適用する
寡婦控除については、さらに一歩進んで児童扶養手当の受給者に限定せず、現に婚姻をしていない者を広く対象に含める方向となりました。一方、住民票上で事実婚の関係にある者がいないということを新たに条件として追加しました。この住民票に関する条件は従来の寡婦・寡夫にも適用があります。
対象となる未婚のひとり親の要件をまとめると次のようになります。AからDのすべてを満たす必要があります。
A |
B |
C |
D |
現に婚姻をしていない |
生計を同じくする子がある(ただし総所得金額等が48万円以下であること) |
合計所得金額が500万円以下 |
住民票に「夫(未届)」「妻(未届)」と記載された関係の者がいないこと |
[3]子がある寡婦の要件を寡夫と同等にし、特別の寡婦という枠組みをなくす
生計を同じくする子がある寡婦の方については、これまで合計所得500万円以下であれば「特別の寡婦」として特例による所得控除、500万円を超えても「一般の寡婦」として所得控除が受けられました。これに対して寡夫の場合は500万円を超えると対象外です。この点は男女平等にすべきだということで、子がある寡婦にも合計所得500万円以下という要件を追加することになりました。同時に、子がある寡婦・寡夫とも所得控除額を所得税は35万円、住民税は30万円に引き上げます。これは従来の「特別の寡婦」と同じなので、その枠組みは廃止されますが、実質的には子がある寡婦について従来の特別の寡婦へ一本化したと考えてよいでしょう。これにより、不利な影響があるのは従来の「一般の寡婦」のうち、子があり、かつ合計所得500万円を超えていた方で、今後は所得控除が受けられなくなります。有利になるのは従来の寡夫の方で、控除額が上がります。
5.おわりに
子供の貧困問題が重視されてきたことに伴い、ひとり親支援策は拡充の傾向にあります。当事務所では離婚問題にお悩みの方を法的側面からお手伝いさせていただくほか、このようなご紹介記事を通じてさまざまな制度についての知識的な面でもサポートしていきたいと考えております。
参照条文
所得税法
(定義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
三十 寡婦 次に掲げる者をいう。
イ 夫と死別し、若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、扶養親族その他その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するもの
ロ イに掲げる者のほか、夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、第七十条(純損失の繰越控除)及び第七十一条(雑損失の繰越控除)の規定を適用しないで計算した場合における第二十二条(課税標準)に規定する総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額(以下この条において「合計所得金額」という。)が五百万円以下であるもの
三十一 寡夫 妻と死別し、若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有し、かつ、合計所得金額が五百万円以下であるものをいう。
(寡婦(寡夫)控除)
第八十一条 居住者が寡婦又は寡夫である場合には、その者のその年分の総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から二十七万円を控除する。
2 前項の規定による控除は、寡婦(寡夫)控除という。
所得税法施行令
(寡婦の範囲)
第十一条 法第二条第一項第三十号イ又はロ(寡婦の意義)に規定する夫の生死の明らかでない者で政令で定めるものは、次に掲げる者の妻とする。
一 太平洋戦争の終結の当時もとの陸海軍に属していた者で、まだ国内に帰らないもの
二 前号に掲げる者以外の者で、太平洋戦争の終結の当時国外にあつてまだ国内に帰らず、かつ、その帰らないことについて同号に掲げる者と同様の事情があると認められるもの
三 船舶が沈没し、転覆し、滅失し若しくは行方不明となつた際現にその船舶に乗つていた者若しくは船舶に乗つていてその船舶の航行中に行方不明となつた者又は航空機が墜落し、滅失し若しくは行方不明となつた際現にその航空機に乗つていた者若しくは航空機に乗つていてその航空機の航行中に行方不明となつた者で、三月以上その生死が明らかでないもの
四 前号に掲げる者以外の者で、死亡の原因となるべき危難に遭遇した者のうちその危難が去つた後一年以上その生死が明らかでないもの
五 前各号に掲げる者のほか、三年以上その生死が明らかでない者
2 法第二条第一項第三十号イに規定するその者と生計を一にする親族で政令で定めるものは、その者と生計を一にする子(他の者の同一生計配偶者又は扶養親族とされている者を除く。)でその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が四十八万円以下のものとする。
(寡夫の範囲)
第十一条の二 法第二条第一項第三十一号(寡夫の意義)に規定する妻の生死の明らかでない者で政令で定めるものは、前条第一項各号に掲げる者の夫とする。
2 法第二条第一項第三十一号に規定するその者と生計を一にする親族で政令で定めるものは、その者と生計を一にする子(他の者の同一生計配偶者又は扶養親族とされている者を除く。)でその年分の総所得金額、退職所得金額及び山林所得金額の合計額が四十八万円以下のものとする。
租税特別措置法
(寡婦控除の特例)
第四十一条の十七 居住者が、所得税法第二条第一項第三十号イに掲げる者(同項第三十四号に規定する扶養親族である子を有するものに限る。)に該当し、かつ、同項第三十号の合計所得金額が五百万円以下である場合には、同法第八十一条第二項に規定する寡婦控除の額は、同条第一項の規定にかかわらず、同項に規定する金額に八万円を加算した額とする。
地方税法
(道府県民税に関する用語の意義)
第二十三条 道府県民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
十一 寡婦 次に掲げる者をいう。
イ 夫と死別し、若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、扶養親族その他その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するもの
ロ イに掲げる者のほか、夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、前年の合計所得金額が五百万円以下であるもの
十二 寡夫 妻と死別し、若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有し、かつ、前年の合計所得金額が五百万円以下であるものをいう。
(個人の道府県民税の非課税の範囲)
第二十四条の五 道府県は、次の各号のいずれかに該当する者に対しては、道府県民税の均等割及び所得割(第二号に該当する者にあつては、第五十条の二の規定によつて課する所得割(以下本款及び第二款において「分離課税に係る所得割」という。)を除く。)を課することができない。ただし、この法律の施行地に住所を有しない者については、この限りでない。
一 生活保護法(昭和二十五年法律第百四十四号)の規定による生活扶助を受けている者
二 障害者、未成年者、寡婦又は寡夫(これらの者の前年の合計所得金額が百二十五万円を超える場合を除く。)
2 分離課税に係る所得割につき前項第一号の規定を適用する場合における同号に掲げる者であるかどうかの判定は、退職手当等の支払を受けるべき日の属する年の一月一日の現況によるものとする。
3 道府県は、第二百九十五条第三項の規定により個人の市町村民税の均等割を課することができないこととされる者に対しては、当該均等割と併せて賦課徴収すべき個人の道府県民税の均等割を課することができない。
(所得控除)
第三十四条 道府県は、所得割の納税義務者が次の各号に掲げる者のいずれかに該当する場合には、それぞれ当該各号に定める金額をその者の前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除するものとする。
八 寡婦又は寡夫である所得割の納税義務者 二十六万円
3 所得割の納税義務者が、第二十三条第一項第十一号に規定する寡婦のうち同号イに該当する者で、扶養親族である子を有し、かつ、前年の合計所得金額が五百万円以下であるものである場合には、当該納税義務者に係る第一項第八号の金額は、三十万円とする。
(市町村民税に関する用語の意義)
第二百九十二条 市町村民税について、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。
十一 寡婦 次に掲げる者をいう。
イ 夫と死別し、若しくは夫と離婚した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、扶養親族その他その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有するもの
ロ イに掲げる者のほか、夫と死別した後婚姻をしていない者又は夫の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、前年の合計所得金額が五百万円以下であるもの
十二 寡夫 妻と死別し、若しくは妻と離婚した後婚姻をしていない者又は妻の生死の明らかでない者で政令で定めるもののうち、その者と生計を一にする親族で政令で定めるものを有し、かつ、前年の合計所得金額が五百万円以下であるものをいう。
(個人の市町村民税の非課税の範囲)
第二百九十五条 市町村は、次の各号のいずれかに該当する者に対しては市町村民税(第二号に該当する者にあつては、第三百二十八条の規定によつて課する所得割(以下「分離課税に係る所得割」という。)を除く。)を課することができない。ただし、この法律の施行地に住所を有しない者については、この限りでない。
一 生活保護法の規定による生活扶助を受けている者
二 障害者、未成年者、寡婦又は寡夫(これらの者の前年の合計所得金額が百二十五万円を超える場合を除く。)
2 分離課税に係る所得割につき前項第一号の規定を適用する場合における同号に掲げる者であるかどうかの判定は、退職手当等の支払を受けるべき日の属する年の一月一日の現況によるものとする。
3 市町村は、この法律の施行地に住所を有する者で均等割のみを課すべきもののうち、前年の合計所得金額が政令で定める基準に従い当該市町村の条例で定める金額以下である者に対しては、均等割を課することができない。
(所得控除)
第三百十四条の二 市町村は、所得割の納税義務者が次の各号に掲げる者のいずれかに該当する場合には、それぞれ当該各号に定める金額をその者の前年の所得について算定した総所得金額、退職所得金額又は山林所得金額から控除するものとする。
八 寡婦又は寡夫である所得割の納税義務者 二十六万円
3 所得割の納税義務者が、第二百九十二条第一項第十一号に規定する寡婦のうち同号イに該当する者で、扶養親族である子を有し、かつ、前年の合計所得金額が五百万円以下であるものである場合には、当該納税義務者に係る第一項第八号の金額は、三十万円とする。