いずれも変更することが可能です。
ただし、親権者の変更は当事者の合意のみですることはできず、家庭裁判所での手続が必要です。まず調停を申し立て、調停で合意できなければ審判で裁判所に判断してもらうのが一般的な流れです。審判になると、親権者を変更することが子供のために必要かどうかという観点から判断されることになります。したがって、結果的に認められないこともあります。
監護権者の変更は当事者の合意のみでもよいし、家庭裁判所での調停または審判を利用することもできます。審判となった際の判断基準はやはり子供のために必要かどうかです。
目次
1.親権者の変更
離婚をするとき、夫婦間に未成年の子がいれば、親権者をどちらかに指定します。婚姻中は共同親権、離婚後は単独親権になるからです。熟慮して決めることが多いとは思いますが、争いになるケースもあり、性急な判断や妥協の結果、後悔が残ってしまうこともありえるでしょう。また、離婚後に思わぬ事態が起こって親権者を変更すべきケースも考えられます。
このように、不適切な親権者指定をしてしまった場合や、事情の変更が生じた場合に対応するため、親権者変更の制度があります。
親権者変更の重要なポイントは、父母が裁判外の協議で合意しただけでは変更できないということです。
<根拠条文>
親権者変更の基本的な根拠条文は、民法819条6項です。
819条6項 子の利益のため必要があると認めるときは、家庭裁判所は、子の親族の請求によって、親権者を他の一方に変更することができる。
親権者変更の手続き(1)調停
民法では親権者変更は家庭裁判所が行うとだけ規定していますが、これを受けた家事事件手続法が「親権者の指定又は変更」を審判事項として規定しているので(同法39条、別表第二8項)、親権者変更は審判手続で行われます。
同時に、別表第二の審判事項は調停事項でもあるので(同法244条)、親権者変更を調停で決めることもできることになります。この場合の調停は調停前置主義(同法257条)による必須の手続ではありません。しかし、父母が合意する余地があるのであれば、調停から始めたほうがよいでしょう。調停をしてみて、合意ができなければ審判に進むという考え方です。
別表第二の調停事件は、不成立に終わった場合には自動的に審判に移行します(同法272条4項)。実務上は、最初から審判を申し立てても、調停に付されることがあります。
① 調停の申立権者
子の親族(民法819条6項)
※親族とは、6親等内の血族・配偶者・3親等内の姻族をいいます(民法725条)。通常は子の父または母から申し立てることが圧倒的多数ですが、祖父母などの親族から申し立てることも可能です。
② 調停の申立先
相手方の住所地を管轄する家庭裁判所又は当事者が合意で定める家庭裁判所(家事事件手続法245条)
③ 調停の申立て費用
- 1,200円(収入印紙で納める)
- 予納郵券(裁判所からの書類の郵送に使用する郵便切手を予め十分な量納め、使わなかった分は手続終了時に返してもらうもの、裁判所によって指定額が異なることがあるため要確認)
④ 調停申立ての必要書類
- 申立書
- 添付書類(申立人、相手方、子それぞれの戸籍全部事項証明書など)
⑤ 手続の流れ
期日が指定され、その日時に双方が家庭裁判所に出頭します。待合室があり、そこから調停室へ移動します。調停は裁判官1名と調停委員2名とからなる「調停委員会」によって運営されますが、成立の時以外は調停委員2名だけで対応することが多いです。調停委員が申立人と相手方それぞれから事情と言い分を聴き取ります。通常は、一人ずつ調停室に呼んで個別に聴き取りを行います。調停委員が双方の意見を調整して、合意の成立を目指していきます。1回の期日で終わらない場合、第2回、第3回と継続していくこともあります。もっとも、合意の余地がなさそうであれば1回でも見切りをつけて調停不成立とします。
調停で合意に至れば、調停成立となり、裁判官も参加して調停調書を作成します。調停調書は確定審判と同じ効力を持ちます。調停により新たに親権者となった者は、成立から10日以内に調停調書の謄本を添付して、市区町村に戸籍の届出をしなければなりません(戸籍法79条、63条1項)。
親権者変更の手続き(2)審判
① 審判の手続
上述のとおり審判に先立って調停を申し立てることが多くなるとは思いますが、審判申立てを行う場合、申立権者、申立て費用、必要書類は調停と同様です。管轄裁判所が異なり、子の住所地を管轄する家庭裁判所(家事事件手続法167条)または当事者が合意で定める家庭裁判所(同法66条1項)となります。
審判が始まると、裁判所による事実の調査が行われます(同法56条1項)。この調査は家庭裁判所調査官に行わせることができます(同法58条1項)。調査官は家庭訪問、学校訪問、子供との面会などを通じてさまざまな観点から子の生育環境を把握し、調査報告書を作成して裁判官に報告します。後述のように、審判をするためには子に関する事情を詳細に把握する必要があるので、調査官による調査はよく活用されています。
事実の調査、当事者の陳述の聴取、必要があれば証拠調べなどを経て、事件が判断するのに熟したときは、審判がなされます(同法73条1項)。後述の判断基準により、認容または却下の結論となります。
なお、15歳以上の子については、子の陳述を必ず聴いたうえでなければ親権者変更(認容)の審判をしてはならないこととされています(家事事件手続法169条2項)。
親権者変更の審判に対しては、子の父母および子の監護者から即時抗告をすることができます。即時抗告期間は2週間です。即時抗告がなければ、審判は確定します。確定した審判に基づいて、新たな親権者は戸籍の届出をする必要があります(上述(1)⑤)。
② 審判での判断基準
審判に移行した場合、民法819条6項にいう「子の利益のために必要がある」かどうかが裁判所により判断されることになります。
具体的には、現在の親権者の監護実績を踏まえ、その適格性に問題がないか、他方の親には適格性があるのか、総合的に見て変更することが子のために必要といえるかどうかを判断します。その際、次のようないくつかの原則も意識されると言われています。
<継続性維持の原則>
一定期間平穏に生活しているならば、その環境を変えない方がよいという考え方です。どちらの親の下でもある程度の期間を過ごしているような場合には一概に判断できないことに注意が必要です。
<母性優先の原則>
乳幼児期には、身体的にも精神的にも母親の役割が重いと考えられてきましたが、近年は生物学的な母というよりも、中心的に愛着形成を行ってきたという意味での「母性」を重視すべきだという考え方に変わってきています(したがって父親に母性が認められることもありえる)。
<子の意思尊重の原則>
上述のとおり15歳以上の子については、子の意思の尊重が保障されています。しかし、それ未満の年齢についても、発達の度合いに応じて子の意思が尊重されるべきだと考えられています。一応の目安として、10歳前後からある程度考慮されるといわれますが、子の置かれている状況によっては自由意思で述べていない(言わされている)と見られることもあります。
<その他>
きょうだいが離れない方が望ましい、面会交流に前向きな親を親権者にする方が望ましい、といった点も考慮されると言われています。
2.監護権者の変更
監護権者とは、親権者とは別の者が、親権に含まれる権利のうち、子の監護養育に関する権利だけを与えられたものです。親権者はつねに親ですが、監護権者は必ずしも親でなくてよく、祖父母などが監護権者となるケースもまれにあります。
離婚にともなって親権者を父母のどちらかに指定する際、父母の協議により監護権者を指定することができます(民法766条1項)。協議が調わなければ家庭裁判所が定めます(同条2項)。家庭裁判所での手続は調停または審判であり、調停で合意できなければ審判という流れで行うのが一般的ですが、そもそも親権者と監護権者を分かれさせるのはあまり好ましくないという考えが前提にあるので、審判で監護権者の指定が認められることは多くないようです。
しかし協議によって監護権者が指定されるケースは十分考えられます。親権や子の引取りにこだわる相手方との離婚を早く成立させたい場合に、監護権者が妥協策として機能することもあるからです。
このように監護権者が指定されているケースで、事情の変化が生じるなどした場合に、監護権者の変更が問題となります。現在監護権者となっている者の監護権を取り消して、通常の親権者のみに戻すことも監護権者の変更に含まれます。
<根拠条文>
監護権者変更の根拠条文は民法766条3項です。当事者の協議でも変更できるという点はこの条文には書いてありませんが、解釈上そのように解されています。
766条1項 父母が協議上の離婚をするときは、子の監護をすべき者、父又は母と子との面会及びその他の交流、子の監護に要する費用の分担その他子の監護について必要な事項は、その協議で定める。この場合においては、子の利益を最も優先して考慮しなければならない。
3項 家庭裁判所は、必要があると認めるときは、前2項の規定による定めを変更し、その他子の監護について相当な処分を命ずることができる。
① 協議による監護権者変更
監護権者は協議のみで変更できるという点が、親権者変更と異なる点です。もともと戸籍記載事項ではないので、戸籍の届出も必要ありません。
② 調停による監護権者変更
協議が調わない場合には、家庭裁判所に調停を申し立てることができます。家事事件手続法では「子の監護に関する処分」というカテゴリーとして規定されており、別表第二の審判事項(3項)ですから、調停手続の概要や審判との関係は親権者変更と同様です。ただし申立権者は父、母、または現在の監護権者です。また、調停が成立しても戸籍の届出は必要ありません。
③ 審判による監護権者変更
裁判所が判断する場合の判断基準は、民法766条1項にいう「子の利益」であり、実際には親権者変更の判断基準とほぼ同じです。ただ、上述の親権者と監護権者の分離は本来望ましくないという考え方があるので、その点も考慮される可能性があるでしょう。
この審判においても、監護権者変更の審判をする場合で、子が15歳以上であれば、必ずその陳述を聴かなければならないとされています(家事事件手続法152条2項)。また、即時抗告もできます(同法156条4号)。変更の審判が確定した場合でも、戸籍の届出は必要ありません。