民法の嫡出推定制度により、生まれた子供は元夫と母の嫡出子として扱われます。戸籍上、生まれた子供は婚姻時に戸籍筆頭者だった方の戸籍に入ることになります。婚姻した際、妻が姓を改めて夫の戸籍に入った場合には、元夫が筆頭者なので、子供は元夫の戸籍に記載されます。「子の氏の変更許可申立て」を行うことにより、子供を母の戸籍に移すことは可能ですが、元夫との法律上の親子関係は、この手続きでは消滅させられません。元夫との法律上の親子関係を否定するためには、原則として元夫による嫡出否認が必要です。嫡出否認の手続きが完了すれば、戸籍を訂正して母の非嫡出子として母の戸籍に記載することができます。
1.出産と出生届
子供が生まれた場合、父または母(離婚後は母)が14日以内に出生届を出さなければなりません。この届出義務への違反に対しては、過料の制裁があります。
出生届は、戸籍を作るために必要になります。出生届が提出されないと、子供は無戸籍になってしまいます。
出生届では子供が嫡出子かどうかを明らかにする必要があります。嫡出子とは婚姻している夫婦の子という意味です。嫡出子であるかどうかは懐胎出産の事実と民法の嫡出推定規定によって決まり、自由に設定できるものではないため、法律上嫡出子となる子供を非嫡出子として出生届を出すことはできないのが原則です。他の男性の子供であっても、嫡出推定により元夫の嫡出子となる場合には、父欄に元夫の氏名を記入し、元夫の嫡出子として出生届をださなければ受理されません。
なお、離婚後に妊娠し、離婚から300日以内に出産した場合は、所定の様式による医師の証明書を添付することにより、元夫を父としない出生届を提出できることとされています。この点について詳しくは関連記事「300日問題と医師の証明書」を参照してください。
2.離婚後に生まれた嫡出子の戸籍
生まれた子供が元夫の子供でも、別の男性の子供でも、嫡出推定の結果として嫡出子とされる以上、戸籍のルールは同じです。
まず子供の氏が民法の規定により決まります。離婚後に生まれた嫡出子は、離婚の際における父母の氏を称することになっています(民法790条1項)。夫婦は婚姻の際に夫または妻どちらかの氏を称することを定めているので(民法750条)、それが「離婚の際における父母の氏」となります。婚姻の際に夫の姓を選んだ夫婦であれば、夫の姓が「離婚の際における父母の氏」であり、たとえ出産の時点で妻が旧姓に戻っていたとしても、嫡出子は元夫の姓になります。
そして、戸籍は氏によって決まります。父の氏を称する子は父の戸籍に入るとされているため(戸籍法18条2項)、元夫の姓を名乗る子供は元夫の戸籍に記載されるということになります。
父母の姓が離婚によって別々になっているため、父母の一方と姓が異なる状態にある子供は、家庭裁判所に「子の氏の変更」の許可を申立てることで、他方の姓に変更することができます。変更すれば、それにより氏が同じになった方の親の戸籍に入ります。しかし、この手続きでは法律上の親子関係に影響を及ぼさないので、元夫の嫡出子であることを否定できるわけではありません。
関連記事:離婚のよくあるご質問「離婚して旧姓に戻りました。子供の姓(名字・氏)はどうなりますか」
3.元夫による嫡出否認
嫡出推定が及ぶ子供について嫡出子であることを否定するためには、嫡出否認という方法があります。しかし、嫡出否認は、元夫が子の出生を知った時から1年以内という期間制限があります。また、妻や子供による嫡出否認の調停の申立ては認められていません。そのため、元夫が子の出生を知った時から1年以内に元夫に嫡出否認の調停を申し立ててもらう必要があります。
元夫からすれば、自分の子供ではない子供との間に法律上の親子関係が発生していることになり、そのままでは扶養義務(養育費支払い義務)や、将来元夫が死亡した時に相続の問題にもつながることから、一般的には協力すべき理由があると思われます。
出生届は、元夫が嫡出否認の訴えを提起した場合にも提出義務があります(戸籍法53条)。したがって、いったんは嫡出子として出生届を出して元夫の戸籍に記載された状態にし、嫡出否認が終了してからその戸籍を訂正するという流れが戸籍法上は原則となります。しかし、戸籍法上は違法となることを承知の上で出生届を出さないまま嫡出否認の手続きを取り、終了してから出生届を出す方もいます。
4.嫡出否認後の戸籍の手続き
(1)出生届を提出済みの場合
先に出生届を提出していた場合、戸籍の訂正を申請します。嫡出否認が調停と審判で終了した場合には審判書の謄本、訴訟で終了した場合には判決書の謄本、および確定証明書が必要です。これにより、いったん元夫の戸籍に入っていた子供は元夫の戸籍から除かれ、母の戸籍に入ります。
(2)出生届を出していない場合
出生届を出さずに嫡出否認を行った場合、上記の審判書謄本または判決書謄本と確定証明書を添えて、出生届を提出します。これにより子供は最初から母の戸籍に記載されます。元夫の戸籍に痕跡が残らないという点でメリットがありますが、出生届の提出期限に間に合わない可能性が高く、過料の制裁を科される可能性があるほか、それまでの間子供が無戸籍となるリスクがあります。
5.無戸籍のデメリット
無戸籍の状態では様々な行政サービスを受けられないと言われますが、実は無戸籍のままでも住民票を作ることができる場合があるほか、就学、健康保険、児童福祉などの分野で無戸籍児童に対する配慮が行われており、戸籍や住民票の有無にかかわらず居住実態に応じてサービスを受けられるようになっているため、デメリットは一定程度解消可能です。
住民票は、嫡出否認・親子関係不存在確認・認知調停の手続き中であれば、①事件係属証明書、②本人の出生証明書(病院で発行されるもの)③その他当該市町村が定める書類を添付し、記載を申し出ることができます。
しかし、運転免許証の取得や銀行の口座開設など、できないまたは非常に困難なサービスも多くあり、やはり無戸籍でいることにはデメリットが大きいと言えます。