離婚後300日以内に生まれたために嫡出推定の適用対象になってしまう子供でも、医師が作成した「懐胎時期に関する証明書」によって離婚後の妊娠であることを証明できる場合には、それを添付して出生届を出すことで、元夫を父親としない出生届を受理してもらえます。
解説
1.嫡出推定と離婚後300日問題
民法772条により、妻が婚姻中に懐胎(妊娠)した子供は夫の子と推定され、かつ婚姻成立から200日を経過した後又は婚姻解消(離婚など)から300日以内に生まれた子供は婚姻中に懐胎(妊娠)したものと推定することとされています(嫡出推定)。
離婚後300日以内に生まれた子供について、元夫を法律上の父とならないようにするためには元夫による嫡出否認の手続きが必要ですが、さまざまな事情で協力を頼めない場合があります。これがネックとなって母が出生届を出すことをためらい、子供が無戸籍になるケースもあります。これを離婚後300日問題と呼んでいます。
2.医師の証明書による救済
子供が無戸籍となることを防ぐため、300日問題の解決策として、法務省が医師の証明書による以下のような出生届の特別な取扱いを認めています(平成19年5月7日法務省民事局通達)。
①離婚後300日以内に生まれた子供について、医師が作成した所定の様式による「懐胎時期に関する証明書」が添付され、その内容により離婚後の懐胎と認められる場合には、嫡出推定が及ばないものとして、元夫を父としない出生届を提出できる。
②「懐胎時期に関する証明書」には、推定懐胎時期を「〇〇年〇月〇日から〇〇年〇月〇日まで」の形で記載しなければならない。推定懐胎時期の最も早い日が婚姻解消より後であれば、婚姻解消後の懐胎と認められるものになる。
③元夫を父としない出生届は次の2種類
・母の非嫡出子としての出生届
・すでに再婚している場合、再婚後の夫の嫡出子としての出生届(再婚から200日経過していなくても戸籍法62条により嫡出子としての届出が可能)
④この方法で出生届を出した場合、子供の戸籍の身分事項欄には「民法772条の推定が及ばない」と記載される。
3.医師の証明書による救済の限界
もっとも、「医師の証明書」による救済にも限界があることに注意が必要です。
まず、「推定懐胎時期」という幅のある証明しかできない点です。医師が証明書を作成する際のガイドラインである日本産科婦人科学会による「「懐胎時期に関する証明書」記載の手引き」によれば、「推定懐胎時期」は妊娠8週~11週の間に行ったエコー検査に基づいて決めた妊娠週数に照らし、妊娠2週0日に当たる日の前後2週間とするのが基本とされます。したがって、たとえば離婚の翌週など、非常に近い時期に妊娠していた場合、「推定懐胎時期」が婚姻期間に重なってしまう可能性が高いでしょう。それでは離婚後の妊娠だという証明ができません。
また、初めてエコー検査をした時期が遅いなど、一定の場合には証明不能とされたり、医師の裁量による「推定懐胎時期」が記載される場合もあります。医師の証明書が得られない可能性も考えれば、早産によって元夫との離婚後300日以内に生まれる可能性がある時期の妊娠には注意が必要ということになります。
4.離婚後の妊娠と再婚禁止期間
女性の再婚禁止期間は100日間ですが(民法733条)、この間に妊娠すると子供が元夫の法律上の子となるのではないか、という誤解が一部にみられるようです。
再婚禁止期間は、前婚と後婚の嫡出推定が重複しないためのものです。再婚禁止期間中は婚姻できない(万が一婚姻届が受理されれば取消しの対象になりうる)という効果しかなく、その間に妊娠した子供の嫡出推定の問題とは関係ありません。
妊娠したのが離婚後100日以内(再婚禁止期間中)であっても、離婚後300日を過ぎてから生まれれば子供が元夫の法律上の子になることはありません(予定日ではなく、実際に生まれた日によります)。逆に、再婚禁止期間を過ぎてからの妊娠でも、超早産で離婚後300日以内に生まれてしまえば嫡出推定で元夫の法律上の子になるという問題が発生します。そのような場合にも医師の証明書によって離婚後の妊娠であることを証明できれば、元夫を父としない出生届を受理してもらえます。