離婚によりひとり親家庭となって児童を養育する方は、児童扶養手当の基本的な対象です。ただし、所得制限などの支給要件がありますので、具体的に該当するかどうかは市町村等の窓口での確認が必要です。
目次
1.児童扶養手当とは
児童扶養手当は、離婚によるひとり親家庭で児童を養育しているなどの一定の要件に該当する場合に現金の給付を受けることのできる社会手当の一種です(令和5年4月現在の支給額は、児童1人の場合全部支給であれば月額4万3070円)。
もともとは、夫と死別した母子家庭が受け取ることのできる母子年金(現在は遺族年金)に対して、離別(生別)による母子家庭も同じように苦しいという理由から、母子年金を補完する位置づけで始まった制度でした。
現在は年金制度とは切り離して、ひとり親家庭の生活の安定と自立の促進のために手当を支給し、それを通じて児童の福祉を増進する制度であり(児童扶養手当法1条)、ひとり親家庭に対するさまざまな支援策の一環と位置づけられています。
1-1.「離婚」は基本的な対象
そのような経緯から、離婚によるひとり親家庭は児童扶養手当の基本的な対象ですが、ほかにもいろいろなタイプのひとり親家庭が対象となっています。
離婚以外では、死別によるひとり親家庭(年金に未加入の世帯など)、片方の親に障害があって実質的にひとり親と同様の家庭、片方の親が生死不明、遺棄(育児放棄や扶養の拒否)、DV防止法上の保護命令、刑事事件で拘禁されていることによるひとり親家庭、母が未婚のためのひとり親家庭が対象とされています。また、これらの事情で両親とも不在になってしまった家庭も対象になります(児童扶養手当法4条1項)。
1-2.支給要件に該当しなければならない
手当の支給を受けるためにはひとり親家庭に該当するというだけではだめで、他にもいくつかの支給要件を満たしている必要があります。
手当は現金の支給なので、国および都道府県の財政負担とのバランスを考慮しなければなりません。そのため、受給者の状況をきめこまかく把握して、支給の有無や額に反映させる形がとられているのです。
離婚によるひとり親家庭として手当を受けるために満たす必要がある支給要件をまとめてみます。
①子供の年齢が「児童」に該当すること
「児童」とは原則として「18歳に達する日以後の最初の3月31日までの間にある者」です(同法3条1項)。ただし、一定の障害があるお子様については「20歳未満」となります。障害の基準は下記のとおりです(法施行令1条1項、別表一)
一 次に掲げる視覚障害
イ 両眼の視力がそれぞれ〇・〇七以下のもの
ロ 一眼の視力が〇・〇八、他眼の視力が手動弁以下のもの
ハ ゴールドマン型視野計による測定の結果、両眼のⅠ/四視標による周辺視野角度の和がそれぞれ八〇度以下かつⅠ/二視標による両眼中心視野角度が五六度以下のもの
ニ 自動視野計による測定の結果、両眼開放視認点数が七〇点以下かつ両眼中心視野視認点数が四〇点以下のもの
二 両耳の聴力レベルが九〇デシベル以上のもの
三 平衡機能に著しい障害を有するもの
四 そしやくの機能を欠くもの
五 音声又は言語機能に著しい障害を有するもの
六 両上肢のおや指及びひとさし指又は中指を欠くもの
七 両上肢のおや指及びひとさし指又は中指の機能に著しい障害を有するもの
八 一上肢の機能に著しい障害を有するもの
九 一上肢の全ての指を欠くもの
十 一上肢の全ての指の機能に著しい障害を有するもの
十一 両下肢の全ての指を欠くもの
十二 一下肢の機能に著しい障害を有するもの
十三 一下肢を足関節以上で欠くもの
十四 体幹の機能に歩くことができない程度の障害を有するもの
十五 前各号に掲げるもののほか、身体の機能の障害又は長期にわたる安静を必要とする病状が前各号と同程度以上と認められる状態であつて、日常生活が著しい制限を受けるか、又は日常生活に著しい制限を加えることを必要とする程度のもの
十六 精神の障害であつて、前各号と同程度以上と認められる程度のもの
十七 身体の機能の障害若しくは病状又は精神の障害が重複する場合であつて、その状態が前各号と同程度以上と認められる程度のもの
(備考)視力の測定は、万国式試視力表によるものとし、屈折異常があるものについては、矯正視力によつて測定する。
②日本国内に住所を有すること
児童、受給者とも住民票が国内に置かれていることが必要です(同法4条2項1号、3項)。国籍要件は過去にありましたが撤廃されています。
③離婚した元配偶者と同居していないこと
籍の上でだけ離婚して、実際には生活を共にしながら児童扶養手当を受け取るという不正受給を防ぐため、元配偶者と「生計を同じくしているとき」には手当を支給しないこととされています(同法4条2項3号・5号)。都道府県には質問権や調査権が認められており(同法29条)、不正受給が判明した場合には刑事罰も科されます(同法35条)。
④再婚相手が児童を養育していないこと
児童が親の「配偶者に養育されているとき」にも手当は支給されません(同法4条2項4号・6号)。「配偶者」とは典型的には再婚相手のことですが、入籍していなくても事実上婚姻関係と同様の事情にある相手を含みます(同法3条3項)。「養育」とは児童と同居し、監護し、生計を維持していることを指します(同法4条1項3号)。
⑤所得制限を満たしていること
所得制限には、受給者本人の所得を見るもの(同法9条1項)と、受給者が同居している家族(正確には、事実婚を含む配偶者または直系血族・兄弟姉妹であって生計を同じくしている人)の所得を見るもの(同法10条)の2種類があってそれぞれ基準額が異なります。この両方を満たしていなければなりません。
受給者本人については、全部支給のための基準額と一部支給のための基準額があります。全部支給の基準額を上回っていても、一部支給の基準額未満であれば、所定の計算式により算出される金額が支給されます。
また、離婚した元配偶者から養育費が支払われている場合、その8割を受給者本人の所得として計算します(同法9条2項、同法施行令2条の4第6項)。
これらの所得制限は前年の所得について適用され、制限にかかれば11月分から翌年10月分までの手当が支給停止となります。
毎年8月に現況届で申告しなければならないほか、再婚などの事情の変更があった場合には14日以内に届出を行う義務があります(同法28条、同法施行規則3条の2)。
⑥公的年金を受給していないこと
公的年金との関係では併給制限があり、児童や受給者が一定の公的年金を受け取っている場合に、手当の支給を受けられないことがあります。平成26年の改正時に、公的年金の額が手当額より低い場合には差額を受け取ることができるようになりました。
⑦期間制限に達していないこと
児童扶養手当はひとり親家庭の生活の安定と自立の促進のためという位置づけです。いわば、ずっと手当に頼るのではなく、手当を利用しながら生活を立て直してやがては自分の力で生活していけるようになってほしいという考えが背景にあり、そのため期間制限が導入されています。
期間制限は、支給開始から5年または支給要件に該当するようになったときから7年です(同法13条の3)。これを超えると支給額が半分に減額されます。
ただし、就業している方、就職活動中の方、障害をお持ちの方などは除外対象です(同法施行令8条)。
2.おわりに
以上が、離婚してひとり親になった方が児童扶養手当を受け取るために、注意すべき支給要件の主なものです。実際の支給の有無および額は、お住いの自治体窓口でご確認ください。