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年金分割の割合はどうなる?夫婦関係パターン別ー名古屋の弁護士による解説コラム

年金分割の割合はどうなる?夫婦関係パターン別ー名古屋の弁護士による解説コラム

離婚の際に年金分割が請求できることは、広く知られていることと思います。しかし、その仕組みについては、なんとなく「年金の一部をもらえるんでしょ?」という認識の方も多いかもしれません。本稿では、年金分割の基本的な仕組みをご説明するとともに、その割合についての実務上の取り扱いを、判例とともにご紹介します。

1.年金分割の基本的な仕組み

年金分割とは、離婚の際に、それまで納めた厚生年金の保険料の記録を夫婦間で分配するように書き直して、それを老齢厚生年金の算定の基礎とすることで、それぞれが老後にもらえる年金の受給額を調整し、離婚による老後保障の格差を防ぐことができる制度です。具体的には管轄の年金事務所に「標準報酬改定請求」を行います。この手続は原則として離婚から2年以内に行う必要があります(厚生年金保険法78条の2)

2.改定の方法

改定されるのは婚姻期間にかかる夫婦それぞれの「標準報酬」です。標準報酬は実際の収入により決まる収入額のランクのようなもので、厚生年金の保険料は標準報酬の18.3%(労使折半)などと決まっており、企業を通じて納付されています。したがって、過去の一定期間の標準報酬はその期間に納められた保険料の記録でもあります。そして、将来支給される年金額も現役時代の標準報酬をベースとして算定されます。年金分割の改定請求があると、夫婦の一方の標準報酬が一定割合マイナスした額に書き換えられ、そのマイナスした分が他の一方の標準報酬にプラスされます。マイナスされる方の当事者を第1号改定者、プラスされる方の当事者を第2号改定者と呼びます(厚生年金保険法78条の6)。これにより、夫が納めてきた保険料の一部が妻が納めたものに書き換わり、妻は将来それに応じた年金を受け取ることができるようになるという仕組みです。

3.「按分割合」をどう定めるか

では、どのような割合で分割を請求できるのでしょうか。後述の3号分割の場合を除いて、年金分割を年金事務所に請求する前にこの割合を決めておく必要があります。法律用語では「請求すべき按分割合」と呼びます。厚生年金保険法78条の3によれば、この割合は次の範囲内でなければなりません。
上限:2分の1
下限:(2号改定者の標準報酬総額)/(夫婦の標準報酬総額の合計)
例として、婚姻期間中の妻の標準報酬総額が2000万円、夫の標準報酬総額が6000万円だった場合、下限は2000万/(2000万+6000万)=1/4となるので、按分割合の範囲は0.25〜0.5となります。この範囲内で、当事者の協議で按分割合を定めて公正証書を作成するか、協議ができなければ家庭裁判所の調停・審判を申し立てて按分割合を決定する必要があります。

4.3号分割とは

上記の特例として、いわゆる3号分割の制度があります。これは専業主婦だった者が離婚をした際に、一方的な請求により自動的に標準報酬の2分の1を妻側に書き換えることができる制度です。比較的新しい制度で、対象となる期間が平成20年4月以降に限られますが、この制度で請求できる部分については、按分割合を別途定めたり調停・審判をする必要はありません。
このように制度上は、3号分割が使える場合とそうでない通常の年金分割とで、分割を請求できる割合に大きな違いが生じうるようになっています。しかし、運用上は両者はかなり近いといってよいです。次に紹介する事例のように、家庭裁判所の審判では、「特段の事情がない限り、分割割合は0.5」というルールが確立しているためです。

5.札幌高裁平成19年6月26日決定

5-1.概要

離婚した後、元妻からの申立てで元夫の年金について分割割合を0.5と定める審判がされました。元夫はこれを不服として高等裁判所に即時抗告しました。不服の理由として、元夫は定年の7年前から夫婦は別居していたこと、定年後は同居しているが家庭内別居状態であることなどを主張しました。

5-2.判決の引用

当裁判所も,原審判別紙1及び同2記載の情報に係る年金分割についての請求すべき按分割合をいずれも0.5と定めるのが相当であると判断する。その理由は,原審判「理由」欄の「2 当裁判所の判断」に記載のとおりであるから,これを引用する。
抗告人は,抗告人が定年退職する7年前から別居し,抗告人が定年退職した後は家庭内別居をしている旨主張する。しかし,前記引用に係る原審判が説示するとおり,婚姻期間中の保険料納付や掛金の払い込みに対する寄与の程度は,特段の事情がない限り,夫婦同等とみ,年金分割についての請求割合を0.5と定めるのが相当であるところ,抗告人が主張するような事情は,保険料納付や掛金の払い込みに対する特別の寄与とは関連性がないから,上記の特段の事情に当たると解することはできない。したがって,抗告人の主張は失当である。

5-3.解説

家庭裁判所が分割割合を定めるに当たっては、上述の上限と下限の制約があるほか、「当該対象期間における保険料納付に対する当事者の寄与の程度その他一切の事情を考慮」しなければならないと規定されています(厚生年金保険法78条の2第2項)。そこで、夫婦が互いに協力していなかったことを示す別居などの事情が、分割割合を低くしたい元夫側から主張されるのです。しかし、判例実務上、白紙の状態から夫婦の寄与度を検討していって相当な分割割合を探るという手法は取られず、デフォルトとして0.5、特段の事情が認められればそれより低い割合になるという判断枠組が取られています。その理由として判例で指摘されているのは次のような点です。
①婚姻期間中の保険料納付に対する寄与の程度は、特段の事情がない限り夫婦同等と見るべきだから(本決定)
②厚生年金は夫婦2人の老後の所得保障という社会保障的な性質・機能を持っており、保険料を納付していくことで2人分の所得保障を同等に形成していくという意味合いを有するから(名古屋高裁平成20年2月1日決定)
③3号分割は専業主婦も保険料を共同して負担したものだという基本的認識に基づいている(同78条の13)が、このような認識は通常の年金分割にも妥当するから(東京家裁平成20年10月22日審判)
とくに③の理由は強力だと思われます。専業主婦であればどの程度家事に貢献してきたかなど問われずに0.5が認められるのに、多少収入のあった主婦は「寄与度」を具体的に問題にされて低い割合しか認められない、というのはいかにもアンバランスです。そのため、「特段の事情」の認定はかなり厳しく行われ、「保険料納付に対する夫婦の寄与を同等とみることが著しく不当であるような例外的な事情がある場合に限られる」とされています(東京家裁平成25年10月1日審判)。本決定では別居や家庭内別居を特段の事情と認めませんでしたが、ほかに浪費、財産の隠匿、宗教活動についても否定された例があります。

6.まとめ

以上のとおり、現在の判例実務では3号分割でなくても分割割合は原則として0.5という扱いになっています。したがって、妻側(収入の少なかった側)の立場で考えれば、安易に調停などで低い割合での分割に同意する必要はありません。少しでも話し合いが難しい場合には、すぐに審判を申し立てることで、スムーズに0.5で解決できる見込みが高いといえます。もっとも、婚姻期間が短い場合には分割しても年金額にほとんど差が出ないこともあります。状況によって年金分割を求めるかどうかも検討すべきでしょう。弁護士の法律相談をお気軽にご利用ください。

関連する法律・条文引用

厚生年金保険法78条の2、78条の3、78条の6、78条の13、78条の14

 

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